美濃島 政樹先生
名古屋中央支部に所属する先生方にインタビューするこの企画。第25回目は、中区にある「美濃島事務所」の美濃島 政樹先生のインタビューです。
ーー受験までの道のりについて教えてください
いろいろあって、突発的に田舎を出て大須でアパートを借りて、その足で全日制の司法書士の受験学校(東京アカデミー)に通うことにしました。
生活費と授業料の返済のため毎日22時から朝の8時まで働いていたので、授業は居眠りというより気絶していました。目覚めた瞬間の「一体オレは何をやっているんだ」という焦りと自己嫌悪が、その後の自習の燃料になりました。
仕事と授業以外の時間にできるだけ睡眠をとり、授業中は寝ないような切り替えを何度も試みますが、座学における睡魔が先に立つ…たぶん私は独学です。学校では八神聖先生にべったりでしたね。感謝しています。
ーー受験勉強や試験でのエピソードについて
学校での定期的なテストは最下層…ハッキリ言ってチンプンカンプンでした。周囲の多くは法学部などでひと通りの勉強をしてきているのに対して、私はどちらかというと運動系にいて法律どころか勉強というものを一生懸命したことがない。だから、考えてみればスタートで劣ることは当然。しかし、そういった環境の違いに気付いても、焦りと自己嫌悪はつのるばかりでした。
いま振り返ると、学校に通い始めた1年間は人生でもっとも切羽詰まった時期だったと感じます。不安ばかりで何もない、若さと体力でかろうじて立っている感じ。合格を夢見るより、出口が見えない暗闇にいるような感じの辛い時代でしたが、たぶんそれは青春でした。
とは言え、1年ほど経過するとリズムが生まれ、自分なりの勉強方法が見えます。「書式精義」という大きな基本書を地道に読み込み、関連付け・繰り返し作業で筋肉がつきました。もちろんトライアンドエラーの繰り返しです。
2年目で合格するのですが、終盤は弾み車が一定の速度で確実に回り始めた感じで、神がかっていました。「何でも来い、合格どころか満点だろ」という境地です。私のような者が合格できた要因は、自分自身の勉強方法というものを確立できたからだと考えます。
そして、この受験期間で得たものが、30年経過した今でも残っていることに驚きます。受験勉強で蓄積したエネルギーや知識は、日々消耗されまた消えていく感じがありますが、「おお、まだ残っているな」と感じる瞬間もあります。
ーー司法書士のやりがいは?
受験学校に申し込んだ時の漠然とした想いは、授業についていけず絶望感に陥ったときには憧れに変わっていましたので、合格・登録・開業の当初は夢心地の状態で「やりがいは?」という答えなんて浮かびません。しかし5年、10年と経ち、嫌なことを経験するとどこか擂(す)れてくる。そのうえでどうだと問われると、否定的なところがないわけでもない。しかし、素敵な仕事だと思います。
覚えなければならないこと、研究しなければならないことはたくさんあり、知的好奇心を満足させてくれる。論理の世界は魅力的です。しかし、法律における論理は次第に好きではなくなってきました。こじつけや言い訳のようなところが多い。こじつけと言い訳の最たる塊が登記なのに、登記は嫌いにならない…なぜか。
私が発行する請求金額は、私の力ではなくて法律の力の部分が多い。つまり、私は法律・司法書士のシステムのおかげで飯を食っているところがある。この部分にはやりがいを感じず「司法書士法さんアリガトウ」という感じです。
一方で、依頼人のニーズを汲み取った文章ができたとき、または複雑で暗闇な現実を言語化できたとき、そういったときは物事が思うとおりに回転します。頻繁に生じることではないですが、そこにやりがいを感じます。現実を上手に切り取ることができたのです。私たち司法書士はそういったことを可能とする立場にあると思っています。
ーー先生の強みはなんですか?
能力的・得意分野的な強みはありません。弱いところは結構あります。それゆえに厳しい質問ですが、なにか答えを差し出さないといけないのであれば、常に瞬発力とスピードが最大になるように努力しており、そういった姿勢を強みとしておきます。
具体的には、体の内部に溜め込んだ知識に頼ることない環境を整えています。これも抽象的すぎますが…ホラ、例えばここにある本たちは切り刻まれて紐で綴られているんです。これを「自炊」と言うんですが、全ページをスキャニングしてデジタル化しています。
すべての本ではないですが、主要な本は5年かけて自炊済みです。本以外にも溜めていた自己ノートを含めて、いろんなソフトに組み込み、どのような機能を発揮するか実装してみる。そしてデジタル上で各部を関連付ける。同じことが書かれているようでも微妙な差異があり、その差異が本質を語る。これが結構面白いんです。
本の内容を分類することで体系ができあがる、もしくは連関など存在しないとを知る。さらに感じたことを書いておく…膨大で途方のない作業ですが、この作業そのものが力になっている気がしています。この、分類・関連付けのやり方は受験時代からの延長で「独学大全」の著者である読書猿さんも辿り着いています。
いずれにせよ、装置や機構のようなこのデジタルたちが、数年後に意識を持ちAIになるかもしれない。この装置が瞬間的に情報を提供してくれるので、けっこうな速さで熟成した正解に辿り着きます。こうした環境を整えています。
ちなみに、この装置は受験時代からの私の分身で、スタートレックに倣って「コンピュータ」と呼んでいます。エンタープライズという建物…私は言わばジャン=リュック・ピカードです。そして、それらを操作するために7つのモニター画面を用意しています。
私の狂い方はそこいらの狂気とはひと味違うと思う。面白みのある話題はこれぐらいしかありませんので、ここでお茶を濁すことにして、次のテーマへ進みましょう。
ーーポリシーや座右の銘を教えてください
守れない約束はしない、依頼人に嘘はつかない、依頼人の秘密を守る ーいかなるときも
殺し屋みたいですね…。
ーーオススメの本を教えてください
本や読書については一家言があります。本を読むことがすべてだと思います。語り出したら止まりませんね。
仕事に関する本としては、やっぱり故・香川保一先生の「書式精義」ですね。私が生まれる前からある本で、香川先生が不動産登記を練り上げたと思っています。受験時代に購入して、今でも参考にしています。内容は改正前のものですが、そこは重要ではなく、つくった人が書く言葉には重みがあって周布されている。香川先生が亡くなられたあとはなにかが違っている。ちなみに「周布」とは、佐久間鼎(さくま かなえ)の形式論理学の術語です。
仕事以外の本としては、伏線回収のようなところから「独学大全」を挙げます。
著者である読書猿さんはサラリーマンだそうですが、文体と比喩がすごい。世の中にはホンモノがたくさんいるなぁと感心します。
身に付けても結局は忘れてしまうという救いのないことが多いけれど、独学者のひとりとして好感を抱きました。
ーー事務所の雰囲気はいかがですか?
平成19年に名駅南からここ大須へと移転しました。もともとは呉服屋のビルだったので、着付けや仕立てをする座敷の小上がりスペースがあり、私が堀ごたつ式にアレンジしました。ここを応接室兼娯楽室として使っています。
今いるスタッフや卒業していったスタッフは、いずれも有能に育っています。無垢の状態で働きながら合格した子も3人。スタッフは1人1部屋で過ごしやすく、ここには活きた書籍やエンタープライズ・コンピュータがあり、この船で解決できない問題はないはずです。
昔の私は根性論のようなところがあり激務もありましたが、今はそんなことはありません。もう仙人のような感じです。いささか薄給のところはあり、台所が苦しくなったときは距離を置いていた仕事に手を出すこともありますが、できるだけやりたい仕事だけしています…本当かな(笑)
実は今スタッフを1人募集していて、誘い文句になればいいなぁと思っています。
ーー今後の目標は
すでに願いは叶い、道はすでに敷いてあるので、新たな目標はありません。幸せです。
より熟成させて一段一段登っていきます。もちろん辿り着くことなどできそうもありません。
美濃島先生、ありがとうございました!
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取材/テキスト ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)
インタビュアーより
美濃島先生の世界、いかがでしたか? 大須商店街の中心にあるビルに事務所を構えていらっしゃる美濃島先生。登記の魅力や、書類制作の裏にある現実を言語化するお話は興味深く、なによりも先生ご本人が「ひと味違う狂気」と話す独自のデータベース構築方法や、その考え方には感嘆しました。加古先生、ご推薦ありがとうございました!
※インタビューの内容は2022年11月取材時のものです。最新の状況は事務所に直接お問い合わせいただくか、司法書士名古屋中央支部へお問い合わせください。
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司法書士名 | 美濃島 政樹先生 |
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